「狩人の夜」鑑賞

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古典的傑作「狩人の夜」を観る。

いいなあ、こういう映画。何と言っても詐欺師かつ殺人鬼を演じるロバート・ミッチャムの演技が凄い。右手に「LOVE」左手に「HATE」というイレズミをした彼が、黒のスーツにパリッと身を固めつつ、バリトンの効いた声で信仰について語りながら善良な人々を騙していくさまは実に圧倒的。天性の詐欺師というのはこういった感じで人を欺いていくんだろうね。

彼の毒牙にかかる寡婦のシェリー・ウィンタースもこの頃は若くて非常に綺麗。ミッチャムの犠牲となり湖の底で冷たくなってゆらぐ姿も妖しく見えるほど。彼女がいなくなって取り残された子供たちがミッチャムの魔の手から逃れる部分はちょっと中だるみするけど、後半になってからはライフルを抱えたリリアン・ギッシュとミッチャムによるせめぎ合いが見応えあり。単なる勧善懲悪の物語ではなく、子供に残る精神的トラウマなんかもうまく表現しているところもいい。

あと照明の使い方も非常にうまくて、特に寝室のシーンで尖った天井に映える光と影のコントラストがとても象徴的でいい感じ。こういう演出は最近のカラー映画では滅多に見られなくなっちゃいましたね。

「The Aristocrats」鑑賞

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超過激手品師コンビ「ペン&テラー」の片割れ…というよりもレジデンツやハーフ・ジャパニーズの協力者ということで俺が尊敬してやまないペン・ジレットが企画&製作したドキュメンタリー「The Aristocrats」を観た。

これは何十年も前からコメディアンたちの間で語られているという伝説的なジョークを扱ったもので、このジョークの基本的な構成は次の通り:

 1、芸能エージェントのところに、1人の男性がやってきて「うちは家族4人でパフォーマンスを披露するんです」と自己紹介する。

 2、「どんな芸をやるんだい?」と芸能エージェントが尋ねる。

 3、男が芸の説明をするか、もしくは家族と一緒に実際に芸を披露する。この芸は想像を絶するくらいに下品なもので、スカトロや近親相姦、獣姦など何でもありの、とにかく卑猥な芸として紹介される。

 4、驚いた(もしくは興味をもった)芸能エージェントが「それで君らの名前はなんていうんだ?」と尋ねる。

 5、男が陽気に「「貴族たち(The Aristocrats)」です!」と答える。

・・・ただこれだけ。これだけの構成をもとに、コメディアンたちは自分流のアレンジ(特に芸の説明の部分)を加えていくんだとか。内容が内容だけに当然ながらテレビとかでは披露できないジョークだから、楽屋でのウォーミングアップだとか仲間うちのパーティーなどで披露されるネタらしい。オチにたどりつくまでをいかに引き延ばせるかで技量を競い合い、長いものだと数十分も話が続いた例があるらしい。

そんでこのドキュメンタリーでは当然ながらこのジョークの様々なバリエーションが語られるわけで、とにかく信じられないような内容の下ネタのオンパレードとなっている。もちろん観ていて気持ちのいいものじゃないけど、このジョークを語ったり、それについてコメントしたりする面々がとっても豪華。クリス・ロックやジョージ・カーリンをはじめ、ジョン・スチュワートやビリー・コノリー、ドリュー・キャリー、エリック・アイドル、ロビン・ウィリアムズ、ウーピー・ゴールドバーグ、ビル・マー、サラ・シルバーマン、さらには「オニオン」の編集スタッフに「サウスパーク」のアニメなど、コメディ界の有名どころが続々と登場するのがすごい。イーモ・フィリップスなんて15年ぶりくらいに見たぞ。こうしたコメディアンがリラックスした雰囲気でジョークに語るところはそれなりに見応えあり。でもまあ彼らのことを知らない人が観たら、単にいい年した男と女が下ネタを延々と喋っているドキュメンタリーにしか見えないだろうなあ。でも「昔はショッキングだった行為が、今ではごく普通に受け止められている」とか「性に関するネタよりも、人種に関するネタのほうが現在ではずっと問題視される」といったコメントは興味深いものがあるな。

肝心のジョークはそんなに面白いわけじゃないし、ドキュメンタリーとしてもそんなに優れた作品じゃないんだが、欧米のコメディアンが好きな人ならちょっと観てみても損はないかも。ちなみにロビン・ウィリアムズってアドリブで語るとかなり面白いのに、どうして映画に出るとああもツマらない人になってしまうんだろうね。

「影なき狙撃者」鑑賞

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今まで観てなかったジョン・フランケンハイマーの政治スリラー「影なき狙撃者」を観た。

カルト的人気を誇っている作品だが、確かに面白い。1962年という冷戦のまっただ中の時代によくこういった作品を作ったよなあ。冒頭の悪夢のシーンも非常に独創的で見事。ジェシカおばさんことアンジェラ・ランズベリーの鬼気迫るママさんぶりもいい感じ。共産圏に拉致されて洗脳されて帰ってきた人、というのはある意味とっても現代的なプロットなんだけど、さすがにそれを日本で映画化したりしたらヤバいだろうなあ、などという野暮なことをちょっと考えてしまった。

フランク・シナトラ演じる主人公の洗脳がうやむやになってしまうこととか、ジャネット・リーの役柄がいまいち理解できないような点もあるものの、全体的には非常に面白い作品。フランケンハイマーというと駄作「レインディア・ゲーム」しか思い浮かばなかった俺ですが、昔はこういう作品を撮ってたんですね。

ジョナサン・デミによるリメイク(ひでえ邦題のやつ)も今度観てみよう。

「ハッスル&フロウ」鑑賞

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AintItCoolとかで高い評価を得ている「ハッスル&フロウ」のDVDをレンタルして観る。

話の展開自体は決して斬新なものではないけれど、転職に命をかける中間管理職のごとく、音楽で有名になって底辺での生活から抜け出そうとする主人公(テレンス・ハワード)がメンフィスのポン引きだってところがミソ。高級なマイクを手に入れるためには自分とこの娼婦に売春を強要するようなダメ男でありつつも、私欲というよりも執念に駆り立てられて運をつかもうとする姿がカッコいい。男の映画っすね。

ボロい家の一室を改造して作ったスタジオでのレコーディング風景も秀逸で、ヒップホップ映画としては「8マイル」よりも面白いかも。俺はギャングスタ・ラップって嫌いなんだけど(オールド・スクールは好き)、「♪ポン引き稼業も楽じゃねえ♪」という異様にキャッチーなテーマ曲(アカデミー賞受賞)にはのせられていまう。一時は第2のマーティン・ローレンスになるかと思われた(ケナし言葉だよ)アンソニー・アンダーソンも、プロデューサーの役を真面目に演じていていい感じ。アイザック・ヘイズもチョイ役を相変わらず渋く演じている。

ちなみに前から不思議に思ってるんだけど、ポン引きってどうやったらなれるんだろう。突然どっかから娼婦を集めて来れるわけでもないし、やはり誰かに弟子入りしてから暖簾分けみたいなことをするんだろうか。

「サイエンス・オブ・スリープ」鑑賞

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ミシェル・ゴンドリーの新作「The Science of Sleep」がDVDで発売されたので早速鑑賞。

うわっはっはっは。なんかえらく笑える作品だった。

父を亡くしてメキシコから母の住むパリへと移ってきたステファンは芸術家志望の青年。新しい職場での退屈な作業には失望するものの、アパートの隣に住む音楽家志望のステファニー(シャルロット・ゲンスブール)に惹かれていくようになり、そこから彼の現実と夢の境界があいまいになっていく…というのが話の大まかなプロット。夢見がちな青年が同じアパートの女性に恋慕して妄想を抱く、という意味では「めぞん一刻」に通じるものがあるのかな。

とにかくステファンの夢のシーンが秀逸で、最先端のCGなんかには頼らずに逆まわしやストップモーションを多用したチープな特撮(ゴンドリーが監督したドナルド・フェイゲンの「snowbound」のPVに似てる)が実に味があっていい。段ボールでできた撮影スタジオとかハリボテの町並みとか、こういうのはアイデアの勝利だよね。1秒間だけ過去や未来に行けるタイムマシンなんてのも非常に面白い。この夢のシーンの滑稽さはとても文章では書き表わせられないので、ぜひご鑑賞あれ。

ただし話の大半は現実世界での出来事を扱ってるので、あまり特撮だらけの作品を期待してると肩すかしをくらうかも。「エターナル・サンシャイン」もそうだったけど、特撮を単なる現実逃避の表現として使わず、むしろそれによって恋愛の切なさを強調しているところが巧みなところか。主人公たちの芸術活動が芸大の生徒みたいで(うちの近所にたくさんいる)なんか青くさい気もするけど、いくつになっても夢を見るのは大切だよってことですかね。

「エターナル・サンシャイン」ほどではないものの、非常によくできた作品。チャーリー・カウフマンの脚本がなくてもゴンドリーは面白い作品が撮れる、ということを証明したものになるのかな。今年公開予定の「Be Kind Rewind」にも期待したいところです。