「ザ・ファウンテン」鑑賞

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「π」に「レクイエム・フォー・ドリーム」といった傑作を送り出した鬼才ダレン・アロノフスキーの待望の新作「THE FOUNTAIN」をやっと観る。元来は5年くらい前にブラッド・ピットとケイト・ブランシェットという「バベル」の2人が主演で撮影される予定だった作品で、オーストラリアに大掛かりなセットが既に建築されていたんだが、ピットが突然降板してクソ映画「トロイ」に出演することにしたため製作が中止になり、今回やっとヒュー・ジャックマン&レイチェル・ワイズ(監督の恋人)主演で完成にこぎつけたわけだ。ちなみに撮影場所はモントリオール。

尺は96分とそんなに長くない作品だけど、そのなかで3つの時代と場所を舞台にした物語が交差して語られていく(以下ネタバレ注意):

1500年:残虐な異端審問官の勢力に攻めたてられるスペイン。王女イザベラ(ワイズ)はマヤ地域の隠されたピラミッドに生えているという「生命の樹」を見つけるため、忠節なコンキスタドールのトマス(ジャックマン)に南米行きを命じる。多くの犠牲を払いながらもついにピラミッドを発見したトマスだが、そこで彼が目にしたものは…。

2000年:末期ガンに侵された妻イジー(ワイズ)をもった医師のトミーは、脳腫瘍の研究のために猿のドノヴァンの治療を行っていた。ドノヴァンの容態が悪化し死が免れないように見えたとき、トミーは独断で南米の樹から採取された未知の化合物を投薬し、それがドノヴァンに驚くべき結果をもたらすことになる。一方トミーの家ではイジーが宇宙の彼方の星雲を望遠鏡で示し、それをマヤ文明がかつてシバルバと呼び、冥府として崇めたということをトミーに語り聞かせるのだった。陽気にふるまうイジーだったが、そんな彼女にも死の影は近づいていた…。ちなみに「ザ・ファウンテン」というのはイジーが書いている本の題名。トミーの上役を「レクイエム〜」で名演技を見せたエレン・バースティンが演じている。

2500年:枯れ果てた「生命の樹」とともに暗い宇宙を旅するトム(ジャックマン。おそらく上のトミーと同一人物)。彼は亡き妻イジーの幻影を見つつ、「生命の樹」を蘇らせるためにイジーがシバルバと呼んだ星雲へと向っていく。そこで彼が目にしたものは…。

このように死と再生をテーマにした3つの話が何の説明もなく折り重なって進んでいくため、1時間くらいしても何が起きてるのか分かりにくいという致命的な欠点があるんだが、それはこの作品の特徴でもあるから仕方ないにしろ、話が3つに分かれているぶんそれぞれの物語や人物のバックグラウンドがいまいち理解しにくい(特に1500年のやつ)感じがするのは否めない。まあそれが監督の意図なんだろうけど。

ストーリーがいささか弱い反面、 ヴィジュアルや演技は非常に素晴らしい。CGIをなるべく使わず、バクテリアなどの顕微鏡写真を星雲に見たてた映像は非常に独創的で美しい。またヒゲ面のコンキスタドールからハゲの宇宙飛行士までの3役を演じるジャックマンの演技が、それぞれのシーンに巧みに合っていて見事。彼ってこんなに演技うまかったんだ。レイチェル・ワイズは末期ガンの患者にしては丸っこいけど(当時妊娠してたんだっけ?)、ブスのケイト・ブランシェットなんぞよりも良い演技を見せてくれる。

その難解さからアメリカでの興行成績は失敗し、「五年の夢が五日で粉々になった」とまで言われた作品だけど、ここ最近では珍しい雰囲気をもった映画であることは間違いない。衝撃度や革新性という意味では「π」や「レクイエム〜」には劣るけれども、一見の価値はある作品ですよ。

「アートスクール・コンフィデンシャル」鑑賞

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俺にとってオールタイム・ベスト第2位の映画「クラム」(第1位は「メトロポリス」ね)の監督であるテリー・ツワイゴフの最新作「アートスクール・コンフィデンシャル」を観た。あ、そういえば彼の前作「バッド・サンタ」はまだ観てねーや。

これはツワイゴフの前々作「ゴースト・ワールド」の原作者であるダニエル・クロウズのコミックを再び映画化したもので、「GW」同様にクロウズ自身が脚本に関わっている。作品の舞台となるのは題名通りアートスクールつまり美術学校で、芸術家になろうとする大志を抱いて入学した主人公が、一目惚れした女の子の心を自分のアートで勝ち取ろうとするものの、周囲には自分の作品がまったく認められず大きな失望を感じてしまう…というのが大まかな話。

4ページほどしかない原作は美術学校にいる典型的なタイプの人たちを鋭く描写したことで話題になったらしいけど、これが2時間ほどの映画になると、どの登場人物も典型的に描かれすぎているというか、奥の深さを感じさせない人物描写ばかりになっているのが残念。クラスメイトに酷評されてどんどん暗黒面に堕ちていく内気な童貞の主人公(アンソニー・ミンゲラの息子だ)とか、口だけで何の助けにもならない教師のジョン・マルコヴィッチとか、もうちょっと深く掘り下げれば非常に面白くなったであろうキャラクターはいっぱいいるんだけどね。決して悪い作品ではないんだけど、傑作「ゴースト・ワールド」に比べると劣っている感じがするのは否めない。

ちなみにうちのすぐ近くにも美術学校があるんだけど、中ではこの映画のようなことが起きてんのかな。

「LESSONS OF DARKNESS」鑑賞

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ヴェルナー・ヘルツォークの1992年の作品「LESSONS OF DARKNESS」を観た。

これはこないだの「THE WILD BLUE YONDER」と似たコンセプトの作品で、地球にやってきた宇宙人が人間たちのことを観察するという内容のもの。ヘルツォーク自身はこれはSF作品だと言ってるようだけど宇宙人たちが登場するわけでもなく、ナレーションもごくわずかで実際にはドキュメンタリーに非常に近いものになっている。

そして話の舞台となるのは第一次湾岸戦争後のクウェートおよびイラク。一面が茶色い砂漠のなかで爆撃によって破壊された巨大アンテナ、流出した原油によってできた湖、イラク軍の拷問の器具などが、オペラ音楽にのせて淡々と映されていく。話の後半は油田での消火活動にあたる人々に焦点があてられ、原油が雨のように降り注ぎ巨大な火柱が吹き荒れるなか、黙々と作業を続けていく消防士たちが登場する。

これらの映像は、戦争という惨事によって生み出されたとはいえ、実のところ非常に美しい。単なるドキュメンタリーもしくはプロパガンダ映画とは明らかに異なった作品なんだが、ヘルツォークがこれを通じて何を訴えたかったのかを理解するのは難しいかも。最後に消防士たちが油田に火を放つシーンに(実際は消防活動の一環らしんだが)、「火のない生活に耐えられなかった彼らは、狂気に駆られて再び火をつけた」というようなコメントをつけることで、戦争に何度も駆られる人間の性を表したかったのかもしれない。

それにしても現在のイラクの惨状を知ってしまうと、第一湾岸戦争での惨劇がひどく他愛ないものに見えてしまうんだよな…。

「狩人の夜」鑑賞

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古典的傑作「狩人の夜」を観る。

いいなあ、こういう映画。何と言っても詐欺師かつ殺人鬼を演じるロバート・ミッチャムの演技が凄い。右手に「LOVE」左手に「HATE」というイレズミをした彼が、黒のスーツにパリッと身を固めつつ、バリトンの効いた声で信仰について語りながら善良な人々を騙していくさまは実に圧倒的。天性の詐欺師というのはこういった感じで人を欺いていくんだろうね。

彼の毒牙にかかる寡婦のシェリー・ウィンタースもこの頃は若くて非常に綺麗。ミッチャムの犠牲となり湖の底で冷たくなってゆらぐ姿も妖しく見えるほど。彼女がいなくなって取り残された子供たちがミッチャムの魔の手から逃れる部分はちょっと中だるみするけど、後半になってからはライフルを抱えたリリアン・ギッシュとミッチャムによるせめぎ合いが見応えあり。単なる勧善懲悪の物語ではなく、子供に残る精神的トラウマなんかもうまく表現しているところもいい。

あと照明の使い方も非常にうまくて、特に寝室のシーンで尖った天井に映える光と影のコントラストがとても象徴的でいい感じ。こういう演出は最近のカラー映画では滅多に見られなくなっちゃいましたね。

「The Aristocrats」鑑賞

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超過激手品師コンビ「ペン&テラー」の片割れ…というよりもレジデンツやハーフ・ジャパニーズの協力者ということで俺が尊敬してやまないペン・ジレットが企画&製作したドキュメンタリー「The Aristocrats」を観た。

これは何十年も前からコメディアンたちの間で語られているという伝説的なジョークを扱ったもので、このジョークの基本的な構成は次の通り:

 1、芸能エージェントのところに、1人の男性がやってきて「うちは家族4人でパフォーマンスを披露するんです」と自己紹介する。

 2、「どんな芸をやるんだい?」と芸能エージェントが尋ねる。

 3、男が芸の説明をするか、もしくは家族と一緒に実際に芸を披露する。この芸は想像を絶するくらいに下品なもので、スカトロや近親相姦、獣姦など何でもありの、とにかく卑猥な芸として紹介される。

 4、驚いた(もしくは興味をもった)芸能エージェントが「それで君らの名前はなんていうんだ?」と尋ねる。

 5、男が陽気に「「貴族たち(The Aristocrats)」です!」と答える。

・・・ただこれだけ。これだけの構成をもとに、コメディアンたちは自分流のアレンジ(特に芸の説明の部分)を加えていくんだとか。内容が内容だけに当然ながらテレビとかでは披露できないジョークだから、楽屋でのウォーミングアップだとか仲間うちのパーティーなどで披露されるネタらしい。オチにたどりつくまでをいかに引き延ばせるかで技量を競い合い、長いものだと数十分も話が続いた例があるらしい。

そんでこのドキュメンタリーでは当然ながらこのジョークの様々なバリエーションが語られるわけで、とにかく信じられないような内容の下ネタのオンパレードとなっている。もちろん観ていて気持ちのいいものじゃないけど、このジョークを語ったり、それについてコメントしたりする面々がとっても豪華。クリス・ロックやジョージ・カーリンをはじめ、ジョン・スチュワートやビリー・コノリー、ドリュー・キャリー、エリック・アイドル、ロビン・ウィリアムズ、ウーピー・ゴールドバーグ、ビル・マー、サラ・シルバーマン、さらには「オニオン」の編集スタッフに「サウスパーク」のアニメなど、コメディ界の有名どころが続々と登場するのがすごい。イーモ・フィリップスなんて15年ぶりくらいに見たぞ。こうしたコメディアンがリラックスした雰囲気でジョークに語るところはそれなりに見応えあり。でもまあ彼らのことを知らない人が観たら、単にいい年した男と女が下ネタを延々と喋っているドキュメンタリーにしか見えないだろうなあ。でも「昔はショッキングだった行為が、今ではごく普通に受け止められている」とか「性に関するネタよりも、人種に関するネタのほうが現在ではずっと問題視される」といったコメントは興味深いものがあるな。

肝心のジョークはそんなに面白いわけじゃないし、ドキュメンタリーとしてもそんなに優れた作品じゃないんだが、欧米のコメディアンが好きな人ならちょっと観てみても損はないかも。ちなみにロビン・ウィリアムズってアドリブで語るとかなり面白いのに、どうして映画に出るとああもツマらない人になってしまうんだろうね。