「BURDEN OF DREAMS」鑑賞

鬼才ヴェルナー・ヘルツォークの名作「フィッツカラルド」の悪夢のような製作過程を追ったドキュメンタリー「BURDEN OF DREAMS」のクライテリオン版DVDを観る。かつて南米のジャングルで「アギーレ 神の怒り」という大傑作(観ろ!)を撮るのに成功したヘルツォークだが、同じく南米の奥地を舞台に「フィッツカラルド」を作るのにあたり、さすがに今回は映画が完成できないかもしれないと危惧して、ドキュメンタリー作家のレス・ブランクに製作過程の一部始終を撮らせたのがこの作品になったらしい。

そんなヘルツォークの不安は現実のものとなり、アマゾンの先住民からの反発や天候の影響、備品の不足などによって製作はズルズルと延びていく。当初は主役を務めるはずだったジェイソン・ロバーツとミック・ジャガーが撮影途中で降板したり、蒸気船が浅瀬に座礁したために撮影が何ヶ月も遅れるなど、映画を作る者にとっては悪夢のような出来事が次々と続いていくわけだが、それでも淡々と(半ば放心状態で)自分のヴィジョンを語るヘルツォークの姿が印象に残る。ストーリーの山場となる蒸気船の峠越えにおいても鉄のフックがちぎれるといったトラブルが頻発するわけだが、先住民を大量動員して船を動かそうとするヘルツォークの姿が、そのまま劇中のフィツカラルドとダブっているのが興味深い。ちなみにヘルツォーク自身はフィッツカラルドと違って先住民を搾取するようなことはせず、自然と共に暮らす彼らの文化を賞賛し、それが西洋文化によって消えていっていることを嘆いている。そして結局映画が完成されるまでに4年かかったとか。

全体的に盛り上がりに欠けるのでドキュメンタリーとしては凡庸なんだけど、自然の極限の地において夢を追い求めるヘルツォークの姿には強く惹き込まれる。あとDVDの特典に収められている、スタッフに対して激しく怒り狂う一方で、チョウを肩に乗せて無邪気に笑うクラウス・キンスキーの映像がとても印象的だ。

「MR.MOTO’S LAST WARNING」鑑賞


ドイツの怪優ピーター・ローレが日本人の秘密エージェント、モト・ケンタロウを演じた「ミスター・モト」シリーズの1つ「Mr. Moto’s Last Warning」を観る。ずっと前にトロントのウォルマートでDVDを1ドルくらいで買ってたのです。どうもパブリック・ドメインに属している作品らしく、archive.orgでもダウンロードできるようだ。

1939年に製作されたこの作品は古典的なハリウッドのサスペンス映画といった感じで、イギリスとフランスの仲を悪化させて第2次世界大戦(!)を引き起こそうとする某国の陰謀を阻止するため、エジプトを舞台にミスター・モトが奮闘する…といった感じのストーリー。ジョン・キャラダインをはじめ、そこそこ名の知れた往年のスターが共演してるみたい。不穏な時代の北アフリカが舞台という意味では、同じくローレが出演した「カサブランカ」に通じるものがあるかな。

神出鬼没の敏腕エージェント、ミスター・モトは当時流行ってた中国人探偵「チャリー・チャン」を明らかにパクったキャラクター。少し出っ歯で丸メガネという外見がちょっとアレだが、頭脳明晰で武術の達人というカッコいい主人公であるため、あまり人種差別的なキャラクターという印象は受けない。カタコトの英語しか喋れないフリをして、気を許した白人から情報を聞き出すシーンもあったりする。そもそもローレがどうやっても日本人に見えないんだけど、冒頭で殺される彼の替え玉役にはしっかりアジア人俳優が使われてたりする。まるで似てない替え玉を使ってどうすんだよ。当時の観客はローレのことを本当に日本人だと思い込んで観てたんだろうか。

尺が70分くらいしかなく、プロットも荒削りなところがあるものの、お茶目なラストまで飽きずに観ることができる好作品。現在のハリウッドはこんな映画つくんなくなちゃったなあ。

「C.S.A.: The Confederate States of America」鑑賞

アメリカの南北戦争で南部が勝利してしまって、奴隷制度が今日まで続いていたら…という「もしもの世界」の歴史を扱った偽ドキュメンタリー「C.S.A.: The Confederate States of America(アメリカ連合国)」を鑑賞する。監督や出演者はみんな無名の低予算映画だけど、スパイク・リーがスポンサーについているようだ。

この作品が凝ってるのは、単に架空の歴史をダラダラと紹介するわけではなく、イギリスが製作したドキュメンタリー番組という形式をとっていることで、番組の合間には「サンボ印のエンジン・オイルは効果抜群!」とか「脱走奴隷を見かけたら一報を!」といった偽コマーシャルが流されたりする。ただしそれ以外には風刺・コメディ色はほとんどなく、非常に手堅いつくりの作品となっている。

この作品におけるアメリカ連合国の歴史は公式サイトのページに詳細が書かれているけど、ヨーロッパの協力を得て南軍が北軍に勝ち、奴隷解放を訴えていたリンカーンはカナダへと逃亡。奴隷制は当然のこととなり、インディアンやアジア人、ユダヤ人も同様に差別される身となる。やがてアメリカは南米への侵攻も画策し、20世紀になってからはヒットラー率いるドイツと手を結び、日本に奇襲攻撃をしかける…といったようなもの。よくある日本のペラペラな架空戦記ものとは違い、様々な歴史資料やコメントを加えることで(もちろんみんな偽物だけど)、重厚な歴史を作り上げてしまっているのが面白い。D.W.グリフィスによるリンカーン狩りの映画フィルム、なんてものまで出てくるのには笑った。

なお全体的には歴史の詳細よりも奴隷制の影響に重きを置いていて、人種差別の上になりたった国家が、いつまでも差別を肯定し続けることによって国内外の情勢に対してパラノイア気味になり、いかに国としてダメになっていくかを描いている。人種差別について語るのにこんな手法を使わなくても、という見方もあるだろうけど、その現実味をおびた内容のおかげでとても見応えのある作品になっていた。歴史の一部は、実際に南軍が抱いていた構想をもとにしたものらしい。前述のコマーシャルも、過去に売られていた商品をもとにしてるんだとか。ただしあまりにも本物っぽい出来なので、むかし中学校とかでむりやり見せられた教育用ドキュメンタリーを見ているような気分になってくるのが、難点といえば難点かな。


ちなみに題材が題材だけにいくらでもツッコミを入れられる作品なんだけど、個人的にちょっと「???」だったのが、カナダが徹底的にリベラルな国として描かれていて、多くの知識人や奴隷がアメリカを「脱南」してカナダに移り住んだおかげでロックンロールをはじめとする多様な文化が花開いた…とされているところ。確かに現実世界のカナダって比較的リベラル寄りだけど、基本的にヨーロッパ万歳なところがあるから、ヨーロッパが南軍に協力したのなら同じく南軍に賛同したんじゃないだろうかとか、そもそもとっくの昔にアメリカに侵攻されてんじゃないだろうかとか、ついそんなことを考えてしまった。細かいことですけどね。

「ナイロビの蜂」鑑賞

欧米で玄人受けしている「THE CONSTANT GARDNER」こと「ナイロビの蜂」の試写会に行ってきた。監督は「シティ・オブ・ゴッド」(俺は未見)のフェルナンド・メイレレスで、原作はジョン・ル・カレ。

ケニアに外交官として駐在しているジャスティン・クエイル(レイフ・ファインズ)は、難民の救援活動に積極的だった妻のテッサ(レイチェル・ワイズ)が旅の途中に惨殺されたことを知る。警察や同僚たちは妻の不倫相手による殺人だとして片付けようとするものの、いくつもの奇妙な事実に不審を抱いたジャスティンは自ら妻の死の真相を突き止めようとして、国家的な陰謀に巻き込まれていくのだった…といのが主なストーリー。映画の前半はテッサの生前の政治活動が主に描かれ、後半からジャスティンによる探求が始まっていく。政治サスペンス50%、恋愛物語30%、社会批判が20%といった内容か。

最近のジョン・ル・カレ原作の映画といえば、ジョン・ブアマン監督の傑作「テイラー・オブ・パナマ」があったが、あちらが重々しい緊張感を持っていたのに対し、「ナイロビ」は鮮烈な色彩や素早いカッティングなどを多用した、ずいぶんスタイルの異なった映画になっている。ストーリーが重々しいのは同じだけど。

内容は意外なくらいに政治的だけど、明らかにされる陰謀があまり驚くべきものじゃない(観ててすぐ予想がつく)うえ、話の展開が速すぎるきらいがあるため、サスペンスとしてはちょっと弱いものがあるかもしれない。「テイラー・オブ・パナマ」は政府や巨大企業の陰謀なんかじゃなく、個人のあざとさを描いてたのが良かったんだけどね。
また全体的に説教くさいところがあって、例えば「ホテル・ルワンダ」では「国連は何の手助けもしてくれない」という事実を前提にしたうえでのストーリー展開がよく出来てたんだけど、この映画は「国連や政府は何もしてくれない!それでいいのか!」といったような、なんか青っちょろい主張をしてるようなのが個人的には好きになれなかったかな。ちなみに「実際にアフリカで起きてる非人道的行為にくらべれば、この映画で描かれてることなんて絵ハガキみたいなもんだ」なんていうル・カレによるメッセージがクレジットの最後に流れてた。

んでこの映画のいちばんの見所は、壮大なるアフリカの大地を舞台にしたヒューマンドラマにあるんだろう。貧しい人々を助けるために精力を尽くすテッサ、そして亡き妻の幻影を追ってアフリカからヨーロッパ、そしてまたアフリカへと旅を続けるジャスティンの姿ははかなげで美しい。観て爽快になるような映画では決してないんだけど、心に残る映画であることは間違いない。ビル・ナイやピート・ポッスルスエイト、ジェラルド・マクソーリーといった怪しい顔のオヤジたちがいろいろ出てたのも良かったです。

ちなみに俺の横に座ってたのがどこぞの映画評論家らしく、こまめにメモをとりながら「俺はこの映画を十分理解してんだぞ、ヘヘン」といった感じで含み笑いを連発してたのが非常にウザいのなんのって。

「Ultimate Avengers」鑑賞

マーヴェルがアニメでDVD市場に参入することになり、その第1弾「Ultimate Avengers」を観る。配給はライオンズゲート。 タイトルが示すように「アルティメイツ」と「アヴェンジャーズ」をごっちゃにしたような作品だけど、ストーリーや設定は「アルティメイツ」を大幅にベースにしている。キャプテン・アメリカの発見から始まり、アヴェンジャーズの結成、そして地球侵略を狙うエイリアンとの決戦へと話が進んでいくが、原作を急ぎ足でなぞった感じが否めず、なんか話の展開に盛り上がりが欠けるきらいがあるかな。チームの団結力の欠如によりエイリアン1匹に手玉にとられるところとか、エイリアンを撃退した直後に味方のはずのハルクと戦うとか、なんか観ててスカッとするような内容になってないのは問題だろう。

もともと「アルティメイツ」はマーク・ミラーの風刺がきいた、どちらかといえば年長者向けのコミックだったけど、この映画はそれを変に子供向けにアレンジしてるものだから、セリフやストリーが単純な割にはキャラクターに毒があって、スーパーヒーローなのにどうも嫌な性格の連中が揃ってるというのもどうかと。どうしてもマーヴェルはDCにくらべてアンチ・ヒーローが多いので、チームものをやると仲間同士のいざこざが目立つのはコミックでも同じだけど。

アニメの出来も中途半端で、リアルにしたいのかカートゥーンっぽくしたいのかいまいち理解しにくいし、映像効果なんかに金をかけてるのは分かるんだけど、そのわりには全体的にやたらチープな感じがするし。フォックスの失敗アニメ「タイタンA.E.」に雰囲気が似ている、といえば分かってもらえるでしょうか。アメコミをアニメ化するのって意外と難しいことだと思うけど、独自のスタイルを確立させたブルース・ティムがいかに偉大であるかを、この作品を観て再認識した次第です。いっそのことマーヴェルもティムを雇って作品を作ればいいのに。劇中のキャラクターと全く似てないビライアン・ヒッチの絵が、最後に流れるのは皮肉だよなあ。

これだけ書いといて何だけど、マーヴェルがこうしたアニメをつくることになったのはファンとして嬉しいことだし、作品の内容も決して原作を改悪したようなものではないことは十分理解できるのです。全体的な評価としては、良くないんだけど決して悪くはない作品といった感じ。ネット上でも同様の意見が多いようだ。今後マーヴェルはDVD向けに本作の続編や「ドクター・ストレンジ」(なぜ?)などのアニメを続々製作するみたいなので、とりあえずクオリティの向上を期待したいところです。