「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」鑑賞

前作から6年も経ったのかあ。監督の解雇騒ぎとかもあったからね。冒頭で「クリープ」が流れた時は席を立つことも一瞬考えたものの、三部作の最後を飾るいい作品でした。以下は感想をざっと。ネタバレ注意。

  • エゴに到着したあと中弛みのあった前作に対し、今回はラクーンの命を救うという使命が最初からあるため、長尺ながらも緊迫感のある内容になっていた。ラクーンのオリジン話にあそこまで時間をかけたのは意外だったけど。
  • 今回のヴィランのハイ・エボリューショナリーって、コミックだと東欧の山奥で動物実験してる奴といった感じであまり強そうな(悪そうな)印象はないのだけど、今回の映像化にあたってはうまくアレンジできていたのでは。
  • 同じくヴィラン的扱いのアダム・ウォーロックも、コミックではジム・スターリン的な、宇宙でウジウジ悩んでるキャラといった印象なので、まあ今回のスーパーマン的なアレンジは大作映画には合ってるんじゃないですか。ちょっとオツムが弱すぎるような気もしたけど。
  • スーパーヒーロー映画だけでなくスペースオペラとしても楽しめて、最近はなんでも画面を暗くするようなトレンドがあるなかで(シャザム2とか)、日中に宇宙船飛ばしてドンパチやってくれたのは嬉しかった。
  • ドラックスの乳首が痛くなるという設定はどこに行ったの?
  • スター・ロードのヘルメットはどこに行ったの?この三部作、通じて同じようなクライマックスがあるので、あのヘルメットがあればいろいろ人が助かったと思うのだが。
  • 「クリープ」をはじめ、今回のサントラは以前よりもっと90年代寄りかな?おれスペースホッグの「In The Meantime」好きなのです。
  • キャストはみんな手慣れた感じでいいですね。リンダ・カーデリーニはアベンジャーズ2でホークアイの奥さんを演じてたので、別の役で出るのか?と思ったら声だけの出演だった。エリザベス・デビッキ、金ピカメイクなので前作も出ていたのに気づかなかったよ。
  • 他にはチュクーディ・イウジとかダニエラ・メルシオールなど、ジェームズ・ガン作品ではお馴染みの役者が出ていた。このあとはみんなガン監督についてDCのほうに行ってしまうのだろうか(除くスター・ロード)。
  • でもサノス亡き後、マーベルのコスミック系のヴィランって数が尽きてきているような。やはりXメンやファンタスティック・フォーを追加することでシアー帝国やギャラクタスあたりを登場させるのかなあ。

『Personality Crisis: One Night Only』鑑賞

マーティン・スコセッシ&デヴィッド・テデスキが監督した、ニューヨーク・ドールズ最後のメンバーであるデビッド・ヨハンセンことバスター・ポインデクスターのドキュメンタリー。

ニューヨーク・ドールズのドキュメンタリーといえば、ベースのアーサー・ケインの生涯を扱った大傑作「ニューヨーク・ドール」があるわけですが、あちらがケインの挫折から復活、そして急激な死までを時系列で追っていたのに対し、こちらはもっとルーズな作りになっている。ロックダウン直前の2020年1月、ヨハンセンの誕生日にニューヨークのクラブで行われた彼のライブ(観客にはデボラ・ハリーなどもいるぞ)で歌と与太話が披露され、それに過去のインタビューなどが挿入されていくスタイル。「ニューヨーク・ドール」で撮影されたモリッシーのインタビュー映像なども使われており、このドキュメンタリーのためにどれだけの映像が新たに撮影されたのか(さらに言うとスコセッシがどのくらい関わったのか)はよく分かりません。

NYパンクの始祖としてイギリスのパンクスにも大きな影響を与えたヨハンセンは、80年代に突然イメージチェンジをしてラウンジ・シンガー「バスター・ポインデクスター」を名乗って世間を驚かせるわけだが、日本の音楽雑誌でも当時は「これ、冗談でやってるよね?」という見方が多かったような。そのあとまたヨハンセン名義に戻ってドールズを再結成したりして成功を納めているわけだけど、さすがに年をとってくるとパンク野郎というよりもラウンジ・シンガーとしての姿の方が似合ってくるわけで、じゃあ今回クラブで歌ってるのはヨハンセンなのかポインデクスターなのか、というところが題名の「Personality Crisis」につながってくるんだろうな。披露される曲は(たぶん)ポインデクスター時代の曲が多いけど、最後はきっちりドールズの「Personality Crisis」を歌ってくれます。

ライブに挿入されるインタビューは、スタテン・アイランドで生まれ育った幼少期から、マンハッタンに移ってドールズを結成した話、そのあとザ・ハリー・スミスというバンドを結成したことやバスター・ポインデクスターを名乗ったことなどが語られていくけど、正直なところそんなに奥の深い話が明かされる訳ではない。とはいえ70代になっても声に非常に艶があって歌が素晴らしいのと、曲の合間で語られる思い出話が面白くて、2時間7分という長尺も気にならずに楽しめる内容だった。映画館で上映するよりも、バーで酒でも飲みながら観るのに適した作品。

「SOMETHING IN THE DIRT」鑑賞

SPRING(モンスター)」「THE ENDLESS (アルカディア)」「シンクロニック」など、ちょっとオカルトっぽいSF映画ばかり作っているジャスティン・ベンソン&アーロン・ムーアヘッドのコンビによる最新作。

舞台はロサンゼルスの安アパート。そこに引っ越してきたばかりのリーヴァイは、長年住んでいるというジョンに家具運びの手伝いなどをしてもらう。その際にリーヴァイのクオーツの灰皿が勝手に動き謎の光を出していることに気づいたジョンは、その怪現象についてドキュメンタリーを撮影しようとリーヴァイに持ちかける。しかし撮影時にふたりのカメラは故障し、さらに謎の地震や記号などが現れ、ふたりのドキュメンタリー撮影は意図しなかった展開を迎えるのだった…というあらすじ。

「アルカディア」同様に主人公ふたりを監督たちが演じていて、ベンソン演じるリーヴァイはモリ突き漁が趣味のバーテンダーで、ムーアヘッド演じるジョンは元数学教師のウェディング・カメラマンという設定。ふたりともお互いに言えない秘密を抱えており、「信頼できない語り手」の役を担ってもいる。

「アルカディア」は田舎のカルト集団の土地で男性ふたりが奇妙な現象に出会う話だったが、今回はロサンゼルスという大都市において怪現象に見舞われる内容になっている。空中浮遊から怪電波からシンクロニシティまで、いろんなオカルトというか陰謀論がわんさか詰まっていて、そういうのが好きな人は相当楽しめるんじゃないですか。ちゃっかりテルミンも出てくるぞ。LAを舞台にした謎の陰謀論の話、という意味では「アンダー・ザ・シルバーレイク」に似ているかもしれない。あれよりもっとホラーっぽいけど。

難点があるとすればやはりラストで、それまではいろんな怪現象が出てきていろいろ面白いのだけど、話のまとめ方がどうもそっけないというか。この監督たち、どの作品も話のまとめ方がなんか残念なんだよな。

なおラストといえば、これ米HULUで観たのだけどエンドクレジットのあとにテキストレス・マテリアルの映像が数分流れるんですよ。海外向けに、英語のテロップや字幕が出てきた部分だけ抜粋した白素材で、代わりに英語以外の言語テロップを載せて本編中に差し替えるやつ。普通の映画だったら、あー配信業者がここカットせずに最後の部分をあわせてエンコードしてしまったのかな、と考えるけど、この映画に関しては内容がメタっぽいところもあり、わざと最後の白素材を残したのかと思ってしまった。実際はどうなんだろう。

この監督ふたりの作品としては、今までやってきたことの集大成的な内容で結構楽しめた。次はどんなアイデアで勝負するか期待してます。

「アントマン&ワスプ:クアントマニア」鑑賞

感想をざっと。ネタバレ注意。

  • ペイトン・リードによるアントマン3作目ということで、さすがにもう「当初の予定通りエドガー・ライトが撮ってたらどうなってたか?」と思うことはなくなったものの、今回はマーベル映画よりもディズニーのファンタジー映画のような内容であった。
  • MCU映画のフェーズ3は「エンドゲーム」のクライマックスの余韻にずっと引きずられていたというか、全体的な明確な脅威がないままヒーローたちが各々のトラブルに対処していたような印象があったけど、今回も(少なくとも冒頭は)世界的な危機が起きるわけでもなく、単に主人公の娘が発明した装置によってみんなが騒動に巻き込まれるというほのぼの(?)したものだったし。
  • この危機感のなさが最近のマーベル映画にありがちな、アクションは多いもののストーリーの起伏に乏しく、最後はとにかく大人数の派手なバトルをやって締めくくるパターンに陥ってた気がする。
  • それでやはりアントマンって大作映画の主役を飾るにはちょっとインパクトが弱いキャラクターなのですよね。戦闘に特化した能力があるわけでもなく、今回は縮小するよりも巨大化してサイズにものをいわせたアクションが多かったな。そのため前作まであった「巨大化するとえらく疲労する」という設定がうやむやになっていた。
  • それとマーベル映画の全体的なルールになっているのではと思うけど、例によって「中の人が話すたびにヘルメットが外れる」のが気になって仕方なくて…アントマンやワスプのヘルメットのデザインは好きだし、被ったまま会話したって構わんのだが。
  • MODOKもマスクつけてましたね。まああれは中の人の正体を隠しておく理由もあったのだろうけど。これであのキャラクターに興味を持った人は、妻子持ちの男性の悲喜劇を描いた傑作であるTVシリーズのほうもチェックしてください。
  • アリたちが活躍するが、女王アリはどこにいたのだろう。あとアリ社会は女王もいるし社会主義じゃないと思うぞピム博士。
  • 出演者はね、やはり話が凡庸でもポール・ラッドの魅力が全体に貢献しているなあと。これからマーベル映画のメイン・ヴィランになるらしきカーンも、サノスなどに比べると扱いが難しいキャラだろうが、ジョナサン・メイジャーズが好演していた。一方でもはや伝統になった「あの意外な役者がMCU映画に出演!」枠はストーリー的にあまり貢献しなくなってるので、もう止めてもいいんじゃないの。
  • 今回からMCU映画のフェーズ4の開始ということで、まだ序盤戦的な立ち位置とはいえ映画としての出来はあまり良くないものであった。これからカーンを軸とした展開をしっかり盛り上げていかないと、さすがにファンの間でもMCU疲れが深刻化してくるのではないかと勝手に思ってしまうのです。

「イニシェリン島の精霊」鑑賞

感想をざっと。

  • 今までのマーティン・マクドナーの作品って過度なバイオレンスとブラック・ユーモアが特徴的で、同じくアイルランドにルーツのあるガース・エニスのコミックに通じるものがあるなと思ってたが、今回は(没になった)舞台劇がベースになってるとかで、従来の作品以上に舞台劇っぽさがあって、特にサミュエル・ベケットの不条理演劇に通じるものがあるかな、と思った次第です。作品の冒頭からコルムがパードリックを説明もなく無視して、観客もなんだこれ?といった気にさせるところとか、ベケットっぽくない?
  • まあそのあとにコルムからもそれなりの説明があるし、老いや創造性の減衰に対する危機感とか、人間関係における乖離とか、いろいろな見方はできるのだろうけど、あまり深掘りせずに不条理演劇として観るのが良いのではと思った次第です。
  • マクドナーの作品としては意外にも、初期短編の「SIX SHOOTER」以来のアイルランドを舞台にした作品になるのか。個人的に90年代にアイルランドに住んだこともあり、イニシェリン島の姿がゴールウェイやドニゴールとかでこんな風景あったよねー、と思い出しながら見ていて面白かったです。時代設定にあるアイルランド内戦って、ブレンダン・グリーソンも出ていた「マイケル・コリンズ」で描かれたように首都ダブリンとかでは大規模な戦闘が行われた印象だが、イニシェリン島のある西部でも爆音が聞こえるくらいの戦闘があったのかな。
  • なお今までアイルランドを舞台にした映画って、封鎖的な環境に嫌気がさした若者が東のイギリスに渡るという内容が多かったので(「シング・ストリート」とか)、さらに西にある孤島の若者が、進展を求めて東のアイルランド本土に渡るという展開はちょっと衝撃的だった。あそこ小さな国だから、どこ行っても同じような感覚があったので。
  • 出演者はブレンダン・グリーソンもコリン・ファレルもマクドナー映画の常連だから特に言うことないわな。バリー・コーガン キオーガンの演技も悪くないけどアカデミー賞にノミネートされるほどかな?という印象。「トロピック・サンダー」の教えに沿ってFull Retardにならなかったのが票を集めたのでしょう。彼よりもパードリックの妹役のケリー・コンドンのほうが演技はずっと良かったな。
  • というわけで万人向けではないにしろ、硬派なブラックユーモアが味わえる作品。個人的にはマクドナーの前作「スリー・ビルボード」よりも良かった。あの青いセーターが暖かそうで欲しいな。