「The Problem With Apu」鑑賞


アメリカのtruTVで放送された50分ほどのドキュメンタリー番組。

ニューヨーク出身のコメディアンであるハリ・コンダバルーはインド系移民の息子で、人気アニメ「シンプソンズ」のファンであったが、そこに登場するインド系のキャラクターであるアプー・ナハサピーマペティロンについては以前から不快に感じていた。インド訛りの英語を喋りインドの風習に忠実なアプーはインド系アメリカ人の象徴ではなくカリカチュアであり、インド系をバカにしている。さらに悪いことに、彼の声をあてているのはハンク・アザリア、白人だ!コンダバルーはアプーに対するこうした不満を、ライターをやっていたw・カマウ・ベルの番組のスケッチでぶちまけたところ、その動画がバイラルヒット。この成功に勇気付けられたコンダバルーはこのドキュメンタリーを作り、アプーが生まれた経歴や、インド系の役者がハリウッドでいかにステレオタイプ化されているかなどを探っていく。さらに彼は問題の元凶であるハンク・アザリアへのインタビューも試みるが…という内容。

コンダバルーが自分のバックグラウンドについて語るのと並行して、いかにアプーというキャラクターがインド系への偏見を培うことになったかが説明されていく。シンプソンズのファンなら誰もが知ってるアプーのセリフ「サンキュー、カムアゲイン」はシリーズ中で8回しか使われていないにもかかわらず、彼のキャッチフレーズとなり、コンビニの店員をやってるのはインド系という偏見を生み出すことになったのだ。

またカル・ペンやハッサン・ミナージ、アーシフ・マンドヴィ、アジズ・アンサリといったハリウッドで活躍するインド系の役者たちにもインタビューがされ、彼らがいかにステレオタイプ的な役を押し付けられ、インド訛りのアクセントで演技することを求められていたかが語られていく。黒人差別のメモラビリアを収集しているというウーピー・ゴールドバーグも登場して、こうした人種によるカリカチュアは黒人も同様であったことを述べていた。

さらに「シンプソンズ」のライターであったダナ・ゴールドにもインタビューをして、アプーが誕生した経緯なども語られるのだが、彼のスタンスはまず「ユーモアが全てに優先する」といったものなので、アプーについて謝罪するようなことはなく、コンダバルーの意向とは微妙な平行線を辿っていたな。コンダバルーはアプーが嫌いであっても未だに「シンプソンズ」のファンではあるのであまりキツいことも言えず、どことなくドキュメンタリーとしての焦点がボケていた印象は否めない。

そんでもってネタバレすると、ずっとコンダバルーが面会を希望していたハンク・アザリアは、悪役のように扱われることを懸念してインタビューを拒否。結局彼には会えずじまいで終わるのですが、こういうの見るとまずパフォーマンスで問題提起をして、狙った相手にはアポなしで突撃するマイケル・ムーアのドキュメンタリー手法ってあれはあれで正解なんだなというのがよく分かりますね。

個人的にはこれを観るまでアプーってむしろ画期的なキャラクターだと思ってまして、変人だらけの「シンプソンズ」のなかでは比較的「良い人」として描かれているし、彼が登場するまでアメリカのアニメ界どころかテレビ界においてインド系のキャラクターなんて殆どいなかったわけで(「ジョニー・クエスト」のハジなんてもっとカリカチュアじゃん)、南アジア人の存在を知らしめた重要なキャラクターだと考えていたのですね。でもやはり実際のインド系にとっては偏見を助長する存在だったのだなあ。

まあでもここ数年でインド系の役者とかをたくさんテレビや映画で見るようになったし、変なアクセントで話しているケースも少なくなってきたし(ゼロではない)、こうしたドキュメンタリーの影響で偏見は打ち消されていくものだと考えたいですな。日本人や中国人や韓国人のような東アジア人も、まだまだハリウッドではカリカチュア扱いを受けているので(Fuck you, “2 Broke Girls”)、こうしたドキュメンタリーなどを用いて偏見と戦っていくべきだと思うのです。

『ジャスティス・リーグ』鑑賞


本日公開なので感想をざっと。以下はネタバレ注意。でも上のポスターでバレてるように、スーパーマンでてくるよ!もはや公然の秘密!

・個人的には大きな問題だと思ったことが2つあったので、先に挙げていく。1つは映像が相変わらずのザック・スナイダー画になっていて、グリーンスクリーンの前で撮影しているのがバレバレという点。色合いも汚くなっている。「ワンダーウーマン」だとセミッシラなんてもっと美しく撮れていたじゃん?それがここではCGの添加物だらけの映像になっていて、クオリティが明らかにダウンしていたのが残念だった。

・もう1つはダニー・エルフマンの音楽が単調かつ耳障りな点。重厚なストリングスが延々と続いて、メリハリがないのよ。自身が作曲したバートン版バットマンのテーマも流用してるんだけど、あの曲調って今回の映画には合わない気がするのよな。ダニー・エルフマンは嫌いじゃないけど、作風の引き出しが狭いのではという考えを最近抱いているのです。ハンス・ジマーのワンダーウーマンのテーマを持ってきたのは当然として、ジョン・ウィリアムスのスーパーマンのテーマを一瞬使ってたのはイイネ!と思ったけど。あと作曲家ではなく音響の仕事だろうが、ブーム・チューブの「BOOM!」とマザー・ボックスの「PING!」はもっと特徴的な音にして欲しかった。

・さらにもう1つ文句を言うと、やはり悪役のインパクトが弱い。「あのお方(Ω)」の登場を後にセーブしたうえでステッペンウルフを持ってきた戦略はよく分かるけど、やはりマイナーなヴィランという印象は拭えない。「ワンダーウーマン」もそうだったけどDCは悪役の選択が微妙すぎるような。「あのお方(Ω)」が登場するのはグリーン・ランタンのときなのかなあ。

・とまあ悪い点を先に書いたけど、実は結構楽しめる作品であったよ。各キャラクターの立ち位置がはっきりしていて、みんなチームとしてだんだん結束してきちんと活躍して、ちゃんと話が盛り上がる冒険活劇になっている。本国の批評家が叩きたくなる内容なのはわかるが、スナイダーの過去2作よりずっと優れているし、ジョス・ウィードンの「エイジ・オブ・ウルトロン」より良いんじゃないかと。

・一説によるとワーナーのCEOの直々のお達しで、DC映画としては最短の2時間という尺になったらしく、予告編で使われていた映像も本編ではカットされていた。これによってテンポが良くなったのか、はたまた説明不足になったのかはよく分かりません。いずれ長尺バージョンも出るでしょ。なおどこまでがスナイダーの手によるもので、どこからがウィードンなのかというのを詮索するのは野暮だと思うので行いません。

・出演者はやはりワンダーウーマンを演じるガル・ガドーがいちばんいい。安心した演技をしているというか。この映画の前に「ワンダーウーマン」が公開されたことでキャラクターに深みが加わったのが大きなプラスになっているな。それに対する新参者としてはフラッシュを演じるエズラ・ミラーがトリックスター的な役回りで良かったです。TV版「フラッシュ」のファンも満足出来るキャスティングではないかと。何をやっても叩かれるベンアフも思ってたより良かったし、ヘンリー・カヴィルのCG処理されたヒゲも気にならなかった。スーパーマンのコスチュームはやはりカラフルであるべきですね。

・アクアマンは威張ってる割にはあまり活躍しなくて、実はそこらへんがコミック通りでもある。海中で会話をするときにいちいち気泡に入る描写にはビックリしたけど、ソロ映画撮ってるジェームズ・ワンが「あれは僕の映画ではやらない」とか言ってるのでいちおう安心。

・おれザック・スナイダー作品ってはっきり言って嫌いだし、冒頭に書いたように彼の映像センスって残念でしかないのですが、それでも意外と楽しめる作品であった。しかし興行的には惨敗しているし、一方で「ワンダーウーマン」が大ヒットしたことを考えると、これからのDC映画って今までのスナイダー(あともしかしたらノーラン)色が弱まって、また違ったスタイルをもったものになっていくのかもしれない。そういう意味では1つのフェーズの終わりというか過渡期にある作品だし、興行成績にめげずにこれをバネにして、これからのDC映画が多様なものになっていくことに期待しましょう。

「MOTHER!」鑑賞


ダーレン・アロノフスキーの新作。完全に合法的にスクリーナーを入手したので観た。何を話してもネタバレになってしまう作品なので、以降はネタバレ注意。

(ネタバレ注意!)

舞台となるのは人里離れた草原のなかにポツリと建つ一軒家。そこには小説家の男とその妻が住んでおり、男がライターズブロックに苦しんでいるなか、妻は古い家(彼らが買い取ったものらしい)の修繕に勤しんでいた。そんなある晩、ひとりの見知らぬ男性が彼らの家を訪ねてくる。夫は彼を気兼ねなく迎え入れ、妻はその事態に困惑しながらも彼を接待する。そして次の日、今度はその男性の妻がやってきた。最初はふたりをもてなす小説家の妻だったが、やがてふたりの振る舞いは客人としての限度を超すようになり、さらにその息子たちもやってきて…というあらすじ。

あらすじからもわかるように、登場する人物には一切名前がついておらず、劇中でも「あなた」とか「彼」といった感じで人が呼ばれるだけ。話の展開も明確なプロットが存在せず、時間が経つにつれて物事がどんどんカオス化していく(ただし実は2部構成になってるので途中でいったん平穏が訪れる)。途中観ていてなんとなくイヨネスコあたりの不条理劇を連想しました。小説家の妻が壁のなかに潜む何かを幻想するあたりは「レクイエム・フォー・ドリーム」の冷蔵庫のシーンを彷彿とさせるかな。話の展開に明確なオチがあるかというと実は無いので、スリラーやホラーというよりもダークなファンタジーに近い内容だったりする。これアレハンドロ・ホドロフスキーが撮ってたほうがしっくり来たかもしれない。

それでこうした登場人物たちが何を象徴しているかというとですね、主人公である小説家の妻は、タイトルの「マザー」が示すとおり「母なる自然」を指しているそうな。そしてその他の人物や出来事は聖書のアレゴリーになっているらしい。いちばんわかりやすいのは訪問者の息子ふたりがケンカするところか。それが創世記の誰を指しているのかはわかりますね。そうなるとふたりの両親は誰かというと、といった感じ。つまりこれ、前作「ノア」に続くアロノフスキー流の聖書の解釈だそうな。

アロノフスキーは脚本の初校を5日で書き上げたらしいが、よく言えば勢いがあるし、悪く言えば詰めの甘さが目立つ出来になっている。大自然を擬人化して、そのイジメられっぷりを描くって小学生並みのアイデアのような…。サスペンスの描写は相変わらず巧みだったけど、CGの出来が雑だったかな?撮影はなんと16ミリで行われたらしく、殆どが室内での撮影なので映像美みたいなものはない。日本では興行的に厳しいと見られたのか劇場公開中止の憂き目にあったが、観てる際の気まずい感じを他の観客と共有したかったな、という気もする。

小説家の妻を演じるのがジェニファー・ローレンスで、体をはった演技を見せつけてくれます。映画史上に残るであろう無駄脱ぎもあるでよ。その年配の夫を演じるのがハビエル・バルデムで、相変わらず何を考えてるんだか分からない不気味な男役。彼らの訪問者をエド・ハリスとミシェル・ファイファーが演じていて、ファイファーのビッチぶりが強かったけど、後半にでてくる意外な女優も良かったな。あとはドーナル&ブライアンのグリーソン兄弟が兄弟役を演じてます。

普通のアートシネマ(にしては金かかってるし、興行的に惨敗したけど)として観る分には、まあ悪い作品ではないと思うのですよ。でもアロノフスキーのファンとしては、なんか彼にしては煮詰まってない作品だなという印象も受ける。とりあえず聖書をネタにするのはもう止めといたほうがいいんじゃないかと思うのです。

「Brawl in Cell Block 99」鑑賞


日本でもカルト的人気を誇るホラー西部劇「トマホーク ガンマンvs食人族」のS・クレイグ・ザラー監督の2作目。以降はネタバレ注意。

ブラッドリー・トーマスは元アル中で、働いていた自動車整備工場を経営難のためクビになってしまう。さらに帰宅した彼は妻のローレンが浮気をしていることを知るが、ブラッドリーは彼女を許し、金を稼ぐために麻薬の運び人となることを決意する。それから18ヶ月後、運び人として得た金でブラッドリーは裕福になり、ローレンも彼の子供を妊娠していた。そんなとき、彼の雇い主のところにメキシコのギャングから大口の取引の話がやってくる。ギャングを信用しないブラッドリーだったが、雇い主の要望もありギャングのメンバーと一緒に麻薬を引き取りに行くものの、警察の張り込みに遭って逮捕・収監されてしまう。中犯罪刑務所で7年という判決を受けて服役するブラッドリー。しかしギャングのボスの使い人が面会に訪れ、彼が逮捕されたことで大きな損益が出たため、それを償うためにレッドリーフ重犯罪刑務所に服役している別の囚人を殺害するよう命じられる。その使い人はローレンを誘拐しており、ブラッドリーが命令に従わなければ赤ん坊を痛めつけると言うのだ。選択の余地のないブラッドリーは、ローレンとまだ生まれぬ子を救うため、レッドリーフ送りになるのを狙って刑務所で暴れるのだったが…というあらすじ。

「食人族」はB級ホラー的な設定を重厚に語っていった職人芸的な作品だったが、こちらは監獄ものを同様のタッチで描いている。2時間超えの尺であるもののブラッドリーが収監されるまでの経緯が入念に描かれていて、肝心の監獄シーンが始まるのは1時間ほど経ってからだが、前半も無駄な会話がなく話の展開が早いので見ている側を飽きさせない。入所の手続きのシーンだけでも緊迫感があるのは巧いね。

そして後半になってローレンの運命を知ったブラッドリーは仏頂面の暴力マシーンと化して、自分の目的に向かって一時も無駄にせずに暴れまくる。いちおう彼は昔ボクシングをやっていたという設定で、その割にはパンチの脇が甘いような気もするものの、その巨漢を活かしていかなる攻撃も受け止め、相手が警棒を持っていようがカンフー使いであろうがお構いなしに殴り、締め付け、手足をベキベキに折っていく。フィニッシュムーブはうつ伏せに倒れた相手の頭を踏みつけることで、これによって頭蓋骨がたくさんパックリ割れていきます。「食人族」はそのえげつない人体破壊の描写が話題になったが、こちらも容赦ない光景が続きますよ。

ブラッドリーを演じるのはヴィンス・ヴォーン。政治的なスタンスとかであまり好きな役者ではないものの、2メートル近い巨漢から繰り出す格闘芸はやはり圧巻。彼のベスト演技だとする意見も多いみたい。なおブラッドリーは外見はゴツいのに車を運転するときはソフトロックばかり流してたりする。そんな彼の妻のローレン役にジェニファー・カーペンター。あとはナチ女収容所のイルザみたいな格好でレッドリーフの所長を演じるのがドン・ジョンソン。そして不気味なギャングの使い人役にはなんとウド・キアー。クラーク・ジョンソンも1シーンに出てたりと、前作に続きキャストが変に豪華だったりする。

まあ決して気軽に観られるような作品ではないけれど、エクスプロイテーション的なジャンルの作品をすごく真面目に撮っているのは特筆すべきことだし、「食人族」がツボにはまった人ならこちらも楽しめるでしょう。なおザラー監督の次回作「Dragged Across Concrete」は再びヴォーン(およびこの映画の出演者の大半)と組むほか、なんとメル・ギブソンも出演して、警察による暴力を扱った作品になるのだとか。ハリウッドでも右寄りの異端児扱いされてるギブソンとヴォーンによる警察映画ってどんなものになるのか?今から楽しみである。

「マイティ・ソー バトルロイヤル」鑑賞


邦題は大目に見るとしても、字幕まで「Contest of champions」を「バトルロイヤル」と訳さなくてもいいんじゃないですかね?以下はネタバレ注意。

・変に力が入って中途半端な出来だった前作から、もっと娯楽路線になって良かったんじゃないですか。初日はお客さんたくさん入ってて、あちこちのシーンで笑いが漏れていたし。

・いままでのMCU映画にありがちだった、今後の作品のために伏線を貼るようなことはなくて、むしろ回収していってる内容か。「AOU」でハルクが最後どうなったかなんて覚えてなかったので、こういうのは有難い。でもこの作品のなかでは結構な天変地異が起きているわけで、これ観てない人は「インフィニティ・ウォー」で困惑したりしないだろうか。

・宇宙が舞台ということもあり、ノリは「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」に近い。観ているときは楽しいんだけど、じゃあアメコミ映画として画期的な作品かというとそうでもないのも、あの作品に近い。まあ娯楽映画として割り切ってしまえばいいんだけどね。勝つ方が分かりきっている戦闘シーンを派手にやる必要はあったのかな、とも思うが。むしろいちばん最後の二人の格闘をもう少し入念にやってほしかった。

・出演者、特に脇役のレベルが高いところで「ガーディアンズ」よりも出来のいい内容になっている。ヒドルストンは相変わらずの演技力だし、相変わらずやる気のなさそうなアンソニー・ホプキンスは置いておいて、ジェフ・ゴールドブラムが特に良かった。劇中劇の豪華なカメオ陣はまったく気づかなかったよ!ちなみにソーがイギリス英語を使ってない一方で、バルキリーやヘラがイギリス訛りで話すのは何故なんだ?

・トレーラーでも確認できるのでネタバレではないと思いますが、ベータ・レイ・ビルは顔だけ彫像で出てますね:

・みんなこれでタイカ・ワイティティ監督の作品が面白いと思ったら、日本では配信オンリーの憂き目に遭っている「ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル」も観ような!いい顔のおばさん女優レイチェル・ハウスも出てるよ。