「KICK-ASS」鑑賞


これダメ。ゴミ映画。12歳くらいの女の子が「FUCK!」とか言いながら銃をぶっ放したりする内容だから大衆受けはしてるみたいだけど、そんなので感心するほど俺はウブでもないし。個人的にマーク・ミラーの原作コミックが嫌いなことは以前にも書いたが、あの原作が傑作に思えるほど映画の出来は非道かった。

問題点は山ほどあるんだけど、いちばん致命的なのは登場人物がみんな不快な連中で、観ていて共感できるキャラクターがいないことか。特に主人公。原作はアメコミというスーパーヒーローと同義語のメディアだったから、主人公が数ページのあいだに「スーパーヒーローになりたい!」と決心してもそれを容易に受け入れられる土壌があったのに対し、映画ではもっときちんと主人公の動機を説明しなければいけないはずだったのに、通販でコスチュームを注文してすぐにキックアスになってるんだもの。違和感ありあり。そのくせ女の子とねんごろな仲になったとたん「スーパーヒーローはやめる」なんて言い出すし、主人公が最後までヘタレでろくに成長しないんだよな。それ以外にもサイコな父娘やどうも怖くない悪役、ちょっと頭のイカれたガールフレンドなど、ペラペラな設定のキャラクターしか出てこないから、彼らがどういう目に遭おうともどうでもいいや、という気になってしまう。

ストーリーもこれを受けてメリハリのないものになっていて、原作のストーリーを追うのに精一杯という感じ。主人公の心情がいちいちモノローグで語られるのもウザいし。原作は少なくともミラーお得意のショック・バリューがふんだんにあったが、こちらは主人公が罠にかけられるさまが悪者の側から描かれていたりするから、キックアスが不意打ちにあっても観てて全く驚きがない、というのは問題だろう。

あと本国では問題になった暴力描写だけど、殆ど気にならなかった。理由は単にウソくさい暴力描写ばかりだから。パンチは重みがないし、主人公の持つバトンはプラスチックの筒みたいだし、血はみんなペンキみたいだった。ケロシンが撒かれた部屋で銃撃戦をして火がつかないというのもよく分からないし、あんな足を焼くくらいの炎で人は死ぬのか?原作のジョン・ロミタJr.のアートによる描写のほうが100倍は暴力的だったよ。ただやはり可愛い顔をして銃をぶっ放すヒット・ガールの姿が活き活きとしてて魅力的であることは否めない。彼女の存在がこの映画の唯一の取り柄だったかな。

そして非常に気になったのが音楽の使い方で、暴力的なシーンにコミカルな曲をあてたり、賛美歌をつかったりといろいろ狙ってるのは分かるんだけど、ぜんぶ裏目に出て場面を台無しにしてるのよ。キックアスがレッドミストの存在を知ったときにスパークスの「This Town Ain’t Big Enough for Both of Us」が流れるなんてのもベタすぎる。とりあえず各場面に合いそうな曲を流せばいいや、という程度の計画しかしてなさそうで不快。マシュー・ヴォーンの映画って初めて観たけど、こんなにセンスの無い監督なの?真面目な話にしたいのかコミカルなものにしたいのか、リアルな描写をしたいのかファンタジー的なものにしたいのか、ものすごく中途半端な作りをしてるんだよな。これでは「X-Men: First Class」も期待できそうにないな。

ちょうどこの感想を書いているときに「10 Reasons Kick-Ass Kicks Ass」という記事を見つけたのだけど、ここに挙げられている10の理由って俺がこの映画を嫌ってる理由でして…。こういう映画を楽しめる人たちがいるってのは十分理解できるんだが、個人的には全く好きになれない作品だった。以上。

「HUNGER」鑑賞


おととしの東京国際映画祭にも「ハンガー」という題で出品されて、そのあとどこかで配給されるかと思ってたんだけど未だに日本公開されてないイギリス映画。

80年代初頭のボビー・サンズのハンガー・ストライキを題材にしたもので、そのハンストの詳細については「SOME MOTHER’S SON」のところに書いたので参照されたし。あちらがハンストに巻き込まれた母親の苦悩を描いていたのに対し、こちらはサンズ本人に焦点を当てた話になっている。

冒頭から20分くらいは殆ど会話のシーンがなく、政治犯として囚人服を着ることを拒んだ青年が毛布だけをあてがわれて監房に入れられ、仲間と一緒に「不潔抗議」を実施して人糞を壁に塗りたくり、尿を床にたれ流し、その戒めとして機動隊員に袋叩きにされたりしつつも、巧妙に外部の仲間たちと連絡をとりあう姿が描かれ、それからサンズのハンストへと話はシフトしていく。

監督のスティーブ・マックィーン(いや、あっちのマックイーンじゃないよ)は本業はモダン・アートのアーティストでこれが初監督作品らしいが、そのカメラワークやライティングなどは目を見張るほどに美しい。ウンコや残飯まみれの監房が奇麗に見えてしまうほど。そして話の途中でサンズと、彼のハンストを止めさせようとする神父が論じあうシーンがあるんだが、そこでは2人の会話を15分以上にわたって1つの固定されたアングルで長回し撮影するという離れ業をやってのけている。普通なら観客が退屈して怒りそうな場面だが、2人の話にじっと耳を傾けたくなるような作りにしているのは見事だと思う。ただし両者のアイルランド訛りがきつくて、半分くらい会話が聞き取れなかったのは残念。

またサンズを演じるミヒャエル・ファスベンダーも周囲が本気で心配したほどの過酷なダイエットに挑み、あばらが浮き出てガリガリに痩せ、栄養失調のため皮膚が荒れまくって出血したサンズの壮絶な姿を熱演している。体は痩せても顔はあまり痩せないタイプらしいのがちょっと損してたけどね。

ただし全体的にはあまりにもアート映画的な雰囲気が強く、政治的なテーマを扱っているとはいえ人の心に訴えるようなものを持った作品ではなかったかな。いちおう当時に非人道的な扱いを受けた囚人たちと、アブグレイブとかで虐待された現代の囚人たちの姿を重ねあわせるという目的があったらしいが、あまりメッセージ色のようなものは感じられなかったかな。話も刑務所の中のサンズの描写に徹底していて、彼が投獄中に議員に立候補したことなどは殆ど言及されていなかったりする。そもそも北アイルランドの紛争って百姓の領地争いのようなものが根底にあるわけで、こういうアート的なアプローチよりももっと土臭いやり方のほうが似合っている気がしなくもないけどね。そういう意味ではハンストに巻き込まれた一般人の困惑を描いた「SOME MOTHER’S SON」のほうが観ていて心に響く作品であった。

北アイルランドに関するそれなりの知識が必要とされる映画なので、なかなか日本人受けはしないだろうが、その映像美は一見に値するし、せっかく日本語訳が存在する(らしい)わけなので、ぜひ日本でもDVDとかが出て欲しい作品。

「エアベンダー」鑑賞


せっかく上質の素材をお膳立てされて、いくらでも優れた作品になる可能性があったのに、あらゆる点で失敗してしまったような作品。その責任はやはり脚本・製作・監督を務めてるM・ナイト・シャマランにあるよなあ。

脚本はまだしも演出とキャスティングが不味い。主人公のガキンチョは物語を通して成長していくさまがまっとうに描かれず、最後になっても眉間にシワをよせてオドオドしているだけ。俺は原作を未見なので、本国で問題になった人種が異なるキャスティングは気にならなかったけど、エスキモーの格好をした白人というのは違和感があったかな。そして敵役にはデーヴ・パテールにアーシフ・マンドヴィ、クリフ・カーティスという実に渋い面子を起用しておきながら、ことごとくミスキャストになっているのはどうしたことかと。パテールは「スラムドッグ・ミリオネア」の素朴な青年のイメージが強すぎるし、マンドヴィは過去にもシリアスな役を演じたことがあるとはいえ、今では「デイリーショー」でコメディやってる人ですからね。あのカン高い声で悪役を演じられても全然凄みがないのよ。

彼ら以外の出演者もみんな手を抜いたようなセリフまわしだし、無駄なクローズアップが多用されているうえ、どうも全体的にせこせこしていてストーリーにメリハリがないんだよな。だから城塞とかが出てきてもスペクタクル感がなくて、箱庭のごとき雰囲気を与えているんじゃないかと。そして「トロイ」を観た時も思ったが、城塞戦を映画で描こうとする人は「王の帰還」を100回くらい観て、攻める側の脅威と守る側の不安をきちんと醸し出さないとダメだよね。そもそも海に面した城塞に船でやってきた連中が、地中から城塞に潜入するのっておかしくないか?

実はシャマランの映画を観るのって「サイン」以来なので、ここ数作で手法がどう変化したかは把握してないんだけど、昔はオチこそひどいものの「何かすごいことが起きているに違いない」という雰囲気を盛り上げて人を引きつける、いわば山師的なサスペンス作りの腕前は一級の人じゃなかったっけ?この作品ではそうした才能が微塵とも感じられなかったぞ。ただしシャマラン作品ということで弱冠の期待をしてしまったところもあるけど、無名の監督による無難な子供向けアクション(春休みの昼間にテレビで放送されるようなやつ)として観ればそこまで悪くはないかも。あと画面が暗いので3Dで観るのは止めたほうがいいかもしれないが。

唯一の収穫は、原作のアニメは面白いかもしれないということが分かった点かな。キャラクター設定とかストーリー自体は興味深いところがあったので。今度機会があればチェックしてみよう。

「プレデターズ」鑑賞


とりあえず以前に予想したことの結果を白文字で書きます:

ノーランド以外ピッタリ当たったじゃないかよ!それだけクリーシェ満載の映画だったということか?

でも個人的にはそこそこ楽しめた。大げさな音楽やあまり深みのない脚本とかが逆に功を奏して、往年のフォックスのSFアクション映画を彷彿とさせているというか。1800円払って劇場で観るべきかは微妙だが、日曜洋画劇場で放送されるとみんな観そうだとか、創元推理文庫からゲームブックが出るんじゃないかとか、なんかそういうノスタルジックなものを感じさせる出来になっていた。

もちろん脚本は穴だらけでツッコミどころ満載だし、敏腕の兵士たちがコンパスや双眼鏡も持ってないのかといった疑問はいくらでも出てくるんだけどね。早くも続編の話が持ち上がってるらしいが、何をやっても矛盾が増えるだけの展開になりそうな気がする。「気付いたら異星にいた」なんて強引な展開はこれ1度しかできないでしょ(もっともフォックスのことだからDVDムービーで死ぬほど搾取するかもしれないが)。

演出は可も不可もなし。エイドリアン・ブロディ演じる主人公が万能すぎるかな。もっと非肉体派というか臆病なタイプかと思ってたんですが。あと各人のキャラは立ってるんだけど、もうちょっと性格描写とかを深く掘り下げても良かったんじゃないかと。特にあの医者とか。2人くらい登場人物を削って残りの人物に厚みを与えたほうが、彼らが犠牲になったときのインパクトが大きくなったんじゃないかな。

ちなみにこの映画の教訓は「日本人はプレデターと同じくらい強いけど、ユダヤ人はもっと強い」ということでいいのかな?

「THE LOSERS」鑑賞


本国での評判がイマイチだったのでなるべく期待せずに観たんだが、それでもダメだった…。

以前にも書いたようにアンディ・ディグルとジョックによるDCコミックス/ヴァーティゴのコミックが原作のアクション映画で、クレイ率いる米軍の特殊部隊がボリビアで麻薬組織殲滅のミッションを行っていたところ、マックスと名乗る謎の男によってミッションは妨害され、幼い命が多数失われる結果となってしまう。おまけにアメリカ政府によって米軍との関わりを否定され、死亡した扱いになってしまったクレイたちはアイーシャという謎の女性の手を借りてアメリカ本土に戻り、マックスに復讐を試みるのだが…というような話。

まあ普通のB級アクション・ムービーといった出来か。メジャースタジオが関わってるだけあって爆発シーンとかは金がかかってるけどね。原作にあった政治的なトーンは鳴りをひそめ、意外な秘密を持った悪役だったマックスも普通のサラリーマンのような人物になってしまっているのが非常に残念なところ。あと続編を意識した作りにするのはいいけど、あそこまでラストをほのぼのとしたものにする必要は無かっただろうに。何でクレジットに「Don’t Stop Believin’」なんかが流れるんだよ!原作では華々しく散っていったルーザーズの面々に対して失礼でありますよ。

じゃあ原作を知らない人なら楽しめるのかといったらそうでもなくて、全体的に話の展開があわただしくて、派手なアクションシーンがあっても何の余韻もなしに次のシーンに移るものだから話の流れににメリハリがなく、役者の演技についても「とりあえずシーンごとに演技をしました」という感じがして感情移入できないんだよな。復讐に燃えているはずのクレイはホテルで休んでばっかだし、アイーシャの行動も不可解なところがあったかと。ピーター・バーグ(脚本)って人物描写はもっと上手い人かと思ってたんだけどな。監督のシルヴェイン・ホワイトが力不足なのか?あとアクション・ムービーにしてはやけに彩度が強いカラーコレクションがされてるのも気になった。ボリビアの町中なんて「スラムドッグ・ミリオネア」みたいだったぞ。

でもまあロケットランチャーをぶっ放すゾーイ・サルダナなどはやはりカッコ良いし、派手なドンパチもあるし、酒でも飲みながらDVDをレンタルしてみる分には楽しめる作品かと。今夏公開の「Aチーム」はこれに比べてどのくらいの出来なんでしょうかね。俺はとりあえず原作コミックスを読み直して、ガッカリした気分を直すことにします。