2021年の映画トップ10

今年は去年に比べると劇場に足を運ぶ回数も多くなり、いわゆる大作映画を大きなスクリーンで観られる機会も多かった一方で、そんなに心に残った作品はなかったような…「DUNE」とか「ノー・タイム・トゥ・ダイ」とか。むしろ例年以上に(あの手この手を使って)配信で視聴したインディペンデント系の小品のほうが記憶に残るものが多かった年でした。その一方でオチどころか観たこと自体も忘れてる作品もあったりして、これ自宅で「ながら視聴」してしまう弊害かなあ。来年はもうちょっと気を引き締めて映画を観ようと思うのです。

以下は順不同。

The Climb

1月に観た作品は内容を忘れがちなのでこういうリストで損をするのだが、中年男ふたりのバディコメディとして楽しめる出来になっていた。

Judas and The Black Messiah

邦題「ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償」。これ日本では劇場公開しなかったんだっけ?史実をどこまで正確に描いているかは置いといても、主役のふたりのパワフルな演技が見られて満足。

「Never Rarely Sometimes Always」

邦題「17歳の瞳に映る世界」。決して気軽に観られるような作品ではないけれど、最初意味不明だった題名が劇中で繰り返されるシーンは衝撃的だった。

Butt Boy

バカみたいな設定だしバカみたいな内容なのだけど、映画としてきちんと成り立ってる不思議な作品。いやほんとに。

「The Opening Act」

これ感想書けば良かったな。ジミー・O・ヤン演じる青年がスタンダップコメディアンとして成功しようとする作品。コメディというよりも監督の経験に基づいた青春物語として楽しめるほか、アメリカのコメディクラブの仕組みがよく分かる面白い作品だった。

ダメ男(たち)が主人公の作品に俺は弱いのです。「シャン・チー」なんかよりも面白かった…。

Pig

「俺は今まで作った料理をすべて覚えている」は今年最強のセリフ。

ザ・スーサイド・スクワッド

大傑作というわけでないけれど、「シャン・チー」や「エターナルズ」といったスーパーヒーロー映画がイマイチだったなか、カッコいい映像とイカすアクションに徹したつくりは爽快だった。

The Show

アラン・ムーア御大の映画を観たよ!と自慢したいがために挙げておく。いや(意外にも)普通に楽しめる作品でしたが。

「マトリックス・レザレクションズ

世間の評価はイマイチのようだけど俺は好き。監督に大金を渡して、本人の信条にあわせて好き勝手に作らせたら良いものが出来たという好例。JJ・エイブラムスが辿り着けない境地がここにある。

そのほか良かった作品としては「ポゼッサー」「サイコ・ゴアマン」「Mr. ノーボディ」「フリー・ガイ」「フレンチ・イグジット」「ほんとうのピノッキオ」あたりかな。「アメリカン・ユートピア」や「サマー・オブ・ソウル」などもコンサート映画としては秀逸なのだけど、ドキュメンタリーとして捉えるとちょっと物足りなかったかな。

完全に私事になるが、映画のサブスクリプション・サービスに入っていると、どうしてもそっちで提供されている作品を優先的にチェックしようという気になってしまうわけで、有料課金の作品をちょっと敬遠してしまう傾向が今年はあったような。よって高い評判を得ている「The Green Knight」「The Card Counter」などはまだ観てなかったりする。さらに言うとネットフリックスの映画も基本的にチェックしてなかったりするのだが、こういうのは選り好みせずにもっときちんと観るようにしないといけないですね。

「AZOR」鑑賞

アルゼンチン・フランス・スイス合作の映画。いろいろ高い評価を得ているので観てみた。

舞台は1980年、軍事政権下のアルゼンチン。銀行家のイヴァンは、謎の失踪を遂げた同僚の後任として妻とともにブエノスアイレスを訪れ、国の富裕層を相手に金融の話をしていく。人や物資だけでなく競走馬までもが消え失せるこの国において、イヴァンは金持ちたちの欲と闇を目にするのだった…というあらすじ。

いちおうスリラーという立て付けだが派手なアクションがあるわけでもなく、一見きちんと管理されているような社会の裏側で蠢く人々の欲望を主人公が目にしていくという内容。主人公に紹介される運転手の名前がダンテというあたり、地獄めぐりを示唆しているのかしらん。聖職者のオッサンが敬虔なようでいちばん強欲だったりします。

右も左も分からないままブエノスアイレスにやってきたイヴァンは、失踪した同僚の残した手がかりをもとに物事の本質に迫っていくわけだが、同僚が普通の銀行員だったのに対してイヴァンはプライベート・バンカーなのでクセのある顧客の取り扱いに慣れている、という設定だったかな?

スイス出身の監督アンドレアス・フォンタナはこれがデビュー作らしいが、画面のスペースなども効果的に使用してベテランのような映像づくりを行っている。これをきっかけにメジャースタジオなどからも声がかかるんじゃないかな。イヴァン役のファブリツィオ・ロンジョーネって「サンドラの週末」の人か…あれ観てないや。

全体的に物静かすぎて、そこまで高い評価を得るべきものかな?とも思ったけど、雰囲気の醸し出し方などは巧みな作品でした。劇中で使われる英語・スペイン語・フランス語を聞き分けることが出来たのが個人的な収穫。

「Mother/Android」鑑賞

クロエ・グレース・モレッツ主演の米HULUオリジナルムービー…のようだけど来月にはNETFLIXで日本でも観られるみたい。

舞台は近未来、人間そっくりのアンドロイドが開発され、召使いとして人間に奉仕している世界。しかしある日世界中を怪電波が襲い、アンドロイドたちは自我を持って人間たちを襲い始める。その直前にボーイフレンドのサムとの子供を妊娠してしまったジョージアは、臨月の身になりながらもボストンを目指してサムと危険地帯の横断を試みるのだった…というあらすじ。

人間に敵対するアンドロイド、ということでSF的な要素があるかと思いきや意外なくらいに無し。ありがちなサバイバルもので襲ってくるのはゾンビでも怪物でも宇宙人でも差し替え可能、といった内容。いちおうアンドロイドが人間の感情を学んでうんたら、という展開もあるものの大して面白くない。せめて「ターミネーター」ばりのアクションがあれば良かったのだが、悲しいかな予算のなさが顕著で顔に機械をひっつけたくらいの役者が追いかけてくる程度。

主人公が妊婦という設定もあまり活かせてなくて、せっかく安全なキャンプに一度はかくまってもらったのにサムの身勝手な振る舞いで追い出されるし、ジョージアも当然ながら派手なアクションができる訳ではないので微妙に話をダルくしている感がある。でも基地の軍人なんかよりも活躍してアンドロイドの襲撃を防いだりしてるんだよなあ。

タイトルが「母とアンドロイド」なのに、母性と機械という要素の絡みがなかったのが至極残念。監督・脚本のマットソン・トムリンって「ターミネーター」のTVシリーズ版のライターも手がけるらしいが大丈夫かね?クロエ・グレース・モレッツもこれとか「シャドウ・イン・ザ・クラウド」みたいなジャンル映画ばかりに出るのは避けた方が良いのでは、と思ってしまうのです。

「マトリックス レザレクションズ」鑑賞

おれ「マトリックス(無印)」好きなのよ。社会人なりたての時にワーナーの試写で何の前知識もないまま観て、これグラント・モリソンの「THE INVISIBLES」じゃん!と勝手に興奮し、メカニックデザインがジェフ・ダロウで、ストーリーボードがマーベルでコミック描いてたスティーブ・スクロースだったりと、MCUもDCEUもライミ版スパイダーマンも無かった時代にアメコミ映画にいちばん近い映画だったんじゃないかな。続編の展開はちょっとアレでしたが。

それで今回の18年ぶりの新作、いわゆるネタが尽きたあとのリサイクル的な作品かな…と思っていたらかなり楽しめる作品だった。ラナ・ウォシャウスキーに好き勝手やらせたような内容で、リメークでもソフトリブートでもなくガチの続編として作られており、約20年前の役者が若々しかった頃の映像をふんだんに使うことも厭わない。前半は特にメタな出来で、三部作をゲームとしてカジュアルに批評し、ついでにワーナー・ブラザースにも言及する悪ノリっぷり。20年前は仮想現実というと「コンピュータープログラムの世界」というイメージだったが、最近は「フリー・ガイ」もそうだけど「ゲームの世界」にシフトしてきた感がありますね。

マトリックス史上最長の148分という長さで、特に前半は過去の登場人物はどうなったかという説明などにずいぶん時間を割いていて、ちょっと配信向けミニシリーズっぽい雰囲気があったかな。前作から引き続き登場している役者はキアヌ・リーブスとキャリー・アン=モス、そしてジャダ・ピンケット・スミスくらいだが、ハリウッド作品にありがちな「ヒロインは若手女優に交代」という展開がなくて、キャリー・アン=モスがMILFと呼ばれて自分の子供たちと出演しててもしっかりキアヌの相方役を演じてたのは良かった。あとクリスティーナ・リッチが30秒くらい出てたのは何だったのだろう。

敵側のコンピューターが何を目的としているのかきちんと説明されないのはシリーズの伝統で、なんかモヤモヤするところもあるし、今まで以上に人類側はコンピューターに頼ってないか?という感もあったな。とはいえ安直に「AIの脅威」、といった話にせずにきちんとしたSF映画にしていて満足。「DUNE」なんかよりもSF映画として楽しめるのでは?スワームたちとのアクションシーンも見応えがあったし、これでまた新たなトリロジーを作って欲しいなと思わせてくれた快作。

「ラストナイト・イン・ソーホー」鑑賞

エドガー・ライト、次作は60年代のブリティッシュ・ホラーにオマージュを捧げた作品になる、みたいなことをずっと言っていて、まさにその通りの作品を作り上げたという感じ。前作「ベイビー・ドライバー」の元ネタがライトの監督したミント・ロワイヤルのミュージックビデオだとしたら、こっちの元ネタは「グラインドハウス」用に作ったフェイクのトレーラー「DON’T」になるのかな。

いろいろ現代的な味付けがされているとはいえ、かなり率直に「60年代ポップカルチャーにオマージュを捧げたホラー」になってるので、他に何を読み取れば良いのか…。冒頭はファッション業界を舞台にした女性同士のドロドロした物語になるのかな、と思ったら舞台が60年代に移ったことで前半は「パフォーマンス」「狙撃者」っぽいギャングスターもの、後半は「赤い影」のようなサイコサスペンスものになっていた。

役者も60年代に活躍した面々を揃えていて、相変わらず渋いテレンス・スタンプとか、これが遺作となったダイアナ・リグとか。リグは「EXTRAS」とか「ドクター・フー」に出演したときは結構老けちゃったなと思ったけど、今作では重要人物を元気に演じていて、当初は別の役者かと思ったくらいです。一方で若手組は、トーマサイン・マッケンジーって「LEAVE NO TRACE」の人か。アニャ・テイラー=ジョイとふたりで主役を張ってるけど、プロットに押されてキャラクター設定がちょっと一面的だったような?マット・スミスはあの変顔を活かして怪しい男の雰囲気をよく出してますね。

エドガー・ライトの映画といえば音楽も売りで、彼が年末に選ぶ「今年の50曲」はいつも拝聴させてもらってます。今作は当然ながら60年代のポップスが中心で、「Puppet On A String」「(There’s) Always Something There To Remind Me」など劇中の展開にあわせた曲の使い方も巧い。ジョージ・ハリスンの「セット・オン・ユー」の原曲も初めて聞きました。あと今回は鏡の映りなどを効果的に使った撮影が非常に特徴的だな、と思ったら撮影監督はパク・チャヌク作品に多く関わってるチョン・ジョンフンが務めてるのですね。

ちょっとプロットというかギミックを前面に押し出した影響で、ストーリー展開や話のテンポが十分に練られていない印象もあり、前作「ベイビー・ドライバー」ほど楽しめる作品では無かったかな。でも初見では見逃した伏線や小ネタなども盛り込まれていると思うので、機会があれば再見して見たい作品です。